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『まなざし』卜部敦史監督、根岸季衣さん 舞台挨拶レポート

当館での上映初日となった10月29日(土)と、翌30日(日)の2日間にわたり、舞台挨拶を開催しました。29日(土)には、監督の卜部敦史さんと主演を務めた根岸季衣さん、30日(日)には、卜部監督とプロデューサー・共同脚本の堀井威久磨さんにご登壇いただきました。
今回は29日(土)の舞台挨拶の様子を中心に、トークの内容をご紹介いたします。

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《10月29日(土) 登壇者:卜部敦史監督、根岸季衣さん》

―本作を撮ろうと思ったきっかけは?

卜部監督(以下、(卜))
私の祖母が認知症で特別養護老人ホームにいまして、祖母の面会に行ったのがひとつのきっかけでした。
車いすに乗った祖母をトイレに連れて行くまではできたのですが、そこからどうやって動かせばいいかが全くわからなかったんです。そこで右往左往していた時に、ヘルパーさんがいらして排せつ介助をしてくれました。それを見て、ここには人が生きているうえですごく必要な何かがあるのではないかなと実感したんです。
その時ちょうど自分の次の作品のテーマを考えていたところで、その光景を見て次は「介護」、これをやりたいと考えました。ですが、自分で働いてみたり、働いている人から直接聞いたり、人肌に触れて、そういう体温からしか学べないことがきっとあるのではないかなと思いまして。それで、ヘルパーとして働きはじめました。訪問看護の仕事をしながら、この作品を作りました。

―もともとの介護に対するイメージは、どのようなものだったのでしょうか。

(卜)
僕自身が一人っ子なので、後々は親の介護が必要になったり、自分自身が介護される立場になったり、ということになるとは思っていました。が、世間のイメージ通りきついとか汚れ仕事だとか、ネガティブなイメージがあったので、最初はむしろ抵抗があったというか、逃げていたというのが正直なところです。

―根岸さん起用のきっかけは?

(卜)
オーディションはやっていたのですが、なかなか自分の中で「これだ」という人に巡り合えずにいました。そんな中、たまたま根岸さんの事務所の社長さんに脚本をお見せしたところ、すごく気に入って下さり、(根岸さんを)ご紹介くださったんです。これはもう、ぜひ根岸さんにお願いしたいということで決まりました。

―根岸さん、本作出演にあたってのお気持ちはどのようなものでしたか?

根岸さん(以下、(根))
監督のお話の通り、初めからオファーがあったわけではなく、脚本をいただいて読んでみたところ、ぜひやりたいなと思って。リハーサルで介護にあたっての色々な動きを教えてもらったんですが、これって誰にとっても必須(の知識)だなということを感じました。「こういう体制なら腰に負担がいかないな」とか。
介護する側もされる側も負担がかからないやり方があるということ、「あぁこれ知っておけばよかった」ということ…先にそういうことを教えてもらうきっかけがあるといいなと思うんですよね、当たり前に。どうしても自分で向き合わないと、そういうことって知れないっていう状況になっているので。

(卜)
そうですね、自分でこういう作品を作っておきながら、やはりおそらく将来こういうことを自分でもするだろうなという、ある意味将来に向けて予行演習を含めての印象を持ちながら作ったというのはありますね。

―劇中の中ではおむつを替えるシーン、食事介助のシーンが多かったと思います。

(根)
皆さんがすでにご覧になったように、食事とおむつを替えるのとの繰り返しなんですが、実際の介護って本当にその繰り返しになるんですよね。大きなスクリーンで音も良くて、でも聞こえるのはおむつの音とかばっかりで…皆さんくたくたになってるんじゃないかなとも思うんですけど(笑)。
この作品は時間通りに撮ったんです。おむつのシーンだけまとめて撮る、というのではなくて、本当に時系列に沿って。そういう意味では合理的ではないやり方なんですが、自分的にはすごくやりやすかったし、だんだん疲れてくる様子とか、そういうところが映像に表れているんじゃないかなと。

撮影にあたって監督からは、「痩せる」ということと、「本番に入ったら僕以外のスタッフと話さないで下さい」と言われていました。とにかく準備している合間も誰とも話さないで、ということで。私は役のことだけ考えていればいいし、逆に楽だったんですよ、集中できて。かわいそうなのはスタッフですよね、つい声をかけちゃったりするので。「ここにいていいの?」とか(笑)。だから皆さん私の顔を見ないようにして避けるようにして…すごく皆に迷惑かけたなと思ったのですが、自分としてはある意味すごく楽しい現場でしたね、ひとつの役の中でそれだけ集中できたので。
そういう撮影のやり方を通しての最後のシーンだったので、「タイムリミットがきた」という感じで気持ちを入れられました。

(卜)
最後のシーンは、脚本上はセリフがあったんです。でも現場で進めていく中で、動きだけでセリフと同じような表現ができるようなことをしてみてくださいと、お二人にお願いしました。それでアドリブで撮らせてもらいましたが、ワンテイクでOKになりました。

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【翌日の舞台挨拶にて、こんなお話がありました】―――――――――――――

―特に思いを込めた、印象に残っているシーンはどこですか?

堀井さん(以下、(堀))
主人公のヨウコと父親の間には会話がほとんどありません。でも最後のシーンは実はセリフがあって、ヨウコがお父さんを罵倒するというのを考えていました。実際に撮影もしたのですが、どうしても納得がいかず、急きょその日の夜にセリフのない台本に書き直したんです。実は父親役の山崎さんは自分が首を絞められることを知らないで、アドリブで演じてもらっています。

(卜)
ここは自分の中でも思い入れのあるシーンの一つです。当初予定していた以外のことが現場で動くことはすごくたくさんあって、でも共同作業でつくっていくものなので僕にとってはそれが醍醐味というか…自分の想像を超えたものが作れるのはすごくうれしいことなので、苦労した分思い入れもあります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―この作品を、どんな世代の方に見てほしいですか。

(卜)
もちろんいろんな方に見ていただきたいが、これからを担うというか、これから介護に直面していく若い世代の方にも見ていただきたいですね。
答えがない映画だと思うんですよ、僕も提示しているつもりはないので。どう受け止められてもかまわないのですが、ラストシーンの先にあるものというか…どうしていけば世の中が良くなっていくのかとか、介護の現状が今よりも前向きに変わっていくにはどうしたら良いのかなということを僕自身も探っている、考えている途中なので、見てくださった皆さんと一緒に考えていけたらすごく嬉しいなと思います。

(根)
今日もご高齢の方が多くいらして…ありがとうございます(笑)。でも、こういった介護の現状にまだ気が回らないというか、現実がそうだと思うんですが、そういう若い世代の方にもぜひ見てもらいたいなと思っています。

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―最後に、お客様にメッセージをお願いします。

(卜)
大変な映画でしたが、最後までご覧いただきありがとうございました。
多くの方から、「自分が介護していたかのような疲労がある。体験映画だね」とよく言われるのですが、正にその通りだなと思います。僕も編集などで何十回、何百回と見ているのですが、見るたびにくたくたになります。
主人公はひとりで向き合っていたわけですが、なかなか一人でずっと最後まで、というのはやはり難しいと思います。僕も仕事をしながら大変なご家族を見ているので分かるのですが、まわりにいる人が当事者にちょっとした優しい言葉をかけてあげたりとか、言わないことを察して気づいてあげたりとか、小さい思いやりや優しさが少しでも個人個人に根付いていけば、今よりももう少し生きやすい世の中になるんじゃないかなと。仕事を通して学んだことでもあります。
いろんな人に見ていただきながら、少しでも今よりも良いものを作っていけたらと感じています。

(根)
真剣に見てくださったのがよくわかり、感想も直に聴かせていただけて本当に嬉しかったです。皆さんの胸に何か届けられたんだなという手ごたえを感じることができました。卜部監督は作品を見てもわかるように、本当に真摯に、生きるということを映画作りの中で考えている人なので、これからどんどん良い作品を作っていってくれる人だと思います。監督を応援する意味でも、この映画をどうぞよろしくお願い致します。

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【30日(日)の舞台挨拶で紹介された、根岸さんのお話】

(卜)
根岸さんは介護経験というものが無かったそうですが、撮影に入るちょうど一年前に実のお父さんを亡くされています。在宅介護に突入する直前で、準備もされていたところだったんです。おむつや手袋などを用意されていたのですが、結局それを使うことなくお父様は亡くなられてしまって。
撮影に入る前に、根岸さんがお父様に使う予定だったそれらを、「ぜひ使ってください」とご提供くださったんです。大変ありがたく使わせていただきました。
根岸さんにとっても特別な思いがあったようで、本当のお父様にできなかったことの追体験のようなものをしているような感覚があったと仰っていました。作品で着ている衣装も、お父様の形見を着ている部分があったりして、並々ならぬ思いでこの撮影に挑んでくださいました。

【ご来場いただいたお客様からの感想】

「自分が経験していることと全く同じで、本当にそのままの自分がそこにいるような気がしました。」
「92歳ですから、こんな具合になるかな。逆にこんなになる前に、何とかならないかな。」
「根岸さんの、娘としての父親に対するいろんな感情がすごく出ていて、心に伝わるものがありました。」
「見ている間にだんだん息苦しくなってきて…。そういう意味で凄まじい映画だなと思いました。」

『まなざし』は11月11日(金)まで上映中いたします。
ご覧いただいた感想を、ぜひ劇場スタッフにもお話しいただけますと幸いです。
上映時間、作品詳細についてはこちらから

(C)2015「まなざし」製作委員会

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