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『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督 舞台挨拶レポート

1月28日(土)上映初日の『湯を沸かすほどの熱い愛』、『チチを撮りに』の監督である中野量太監督にお越しいただき、舞台挨拶を開催しました。監督の作品にかける思い、撮影裏話などなど、たくさんお話ししていただきました。その様子をご紹介します。
※ネタバレを含みます。ご鑑賞前にご覧になる場合はご注意ください!

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―――映画賞の発表でタイトルを見ない日はないくらい、大変な高評価を得ている本作。宮沢りえさん、杉咲花さんの、総ナメかというくらいの女優賞受賞ニュースはお客様の耳にも多く入っているのではないかと思います。監督ご自身もたくさんの監督賞にノミネート、受賞されていらっしゃいますが、中でも印象に残っている賞、選ばれて嬉しかった賞はありますか?

中野監督
やはり日本アカデミー賞に選ばれたのはとても嬉しいですね。作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演女優賞、新人俳優賞を優秀賞としていただきました。女優二人はもしかしたら絡んでくれるかなと思ったんです、でも作品賞というのは驚いたし、本当に嬉しかったですね。
※3月3日(金)が最優秀賞の発表となりますので、皆様どうぞご期待ください。

―――中野監督が授賞式で感極まってしまったというニュースもお見掛けしました。新藤兼人賞で金賞を得られたときのことですが…

中野監督
はい、新藤兼人賞という、現役のプロデューサーが今後一緒に仕事をしたいという新人監督を選ぶ賞で金賞をいただきました。
僕は、最初は映画の助監督をしていたんですが、全然だめで、本当にダメで。一回映画業界をドロップアウトしているんです。ドロップアウトした後、自主映画をコツコツと撮ってきてやっとここまで来れて。その苦しい時期に僕をずっと助けてくれていたプロデューサーがいて、その人にその式でお礼を言おうと思ったんです。そうしたらもう駄目でしたね…。もう言葉にならなかったですね。

―――作品についてお聞きします。本作の撮影の中で、現場でお芝居を観ながら初めて泣かれたそうですが、具体的にどのシーンで感極まってしまったのでしょうか?

中野監督
僕は現場でも入り込んでしまうタイプで。だから言ってしまえば一番最初の観客なんですよね、そこでグワーッと入り込んでしまって。
最初にきたのは、絵具だらけの安澄をお母ちゃんが迎えに来るシーンを撮ってるときに、たまらなくなってしまってですね…(笑)。
鮎子が「この家にいさせてください」と言うシーンもそうですね。このシーンなんかは、カットをかけたらカメラマンもカメラから目を外したらびちょびちょになっていました(笑)。
でもやっぱり一番は、安澄がお母ちゃんと最後に病室で別れるシーンです。あのシーンは撮影自体も最終日に撮りました。僕は最後のあのシーンを撮るときには肉体的にも宮沢さんにアプローチをしてほしいと思っていて。最初にお会いして打ち合わせをする時に言おうと思っていたんです。そうしたら僕が言う前に宮沢さんが、「私に一週間ちょうだい、一週間もらったらちゃんとやってくるから」って仰られて。
結局、撮影自体が3週間しかないので、最後の5日間だけ宮沢さんに撮影が無い日を与えて、その間に他のシーンを撮って待っていたんです。で、最後の5日が経って、最終日。朝、宮沢さんが現場に来た時にはあの姿になっていて…もうスタッフたちは皆、「これは、今日は裏切れない」というか、「本当に良いシーンを撮らなきゃいけない」となりました。それで撮ったシーンなので…。
安澄役の(杉咲)花ちゃんにとっても、ずーっと撮影をしてきているので彼女の中ではもう‟お母ちゃん“になっているわけですよ、それであの姿で来ているので、あの涙は本当なんですよね。本当にお母ちゃんが死んでしまうっていう涙を彼女は流していて。あれは2テイク撮っているんですけれども、1テイク目はもうね、泣きすぎちゃって。すっごく良かったんですけど泣きすぎちゃって尺が長すぎちゃって(一同笑)。申し訳ないけど、もう一回だけ少し縮めたのをやろうっていって撮るぐらい、彼女は本気の涙を流していて。そんなものを見たらね…。僕にとっても、とても良い経験だったと思います。

―――監督は6歳でお父様と死別されて、お母様が監督とお兄様の二人兄弟を育てられたそうですね。そんな監督が生み出した2作品、『チチを撮りに』も『湯を沸かすほどの熱い愛』も、「お母ちゃん」と家族の話になっています。
監督ご自身のなかで、「お母ちゃん」を描くことへのこだわりというか、思い入れというものは強いのでしょうか?また、物語の中に、監督ご自身が経験されたエピソードが入っていたりはするのでしょうか?

中野監督
僕は母子家庭でずっと育ったので、「モデルはお母さんですか」と確かによく聞かれるんですけれども。‶This is うちの母“で描いているわけではなくて。基本的に僕は自分の中にある感情に嘘をついて表現するのが嫌で、やっぱり自分の中に在るものを、分かったものをちゃんと表現したくて。そうなると僕は母に育てられてきたというのが僕の中で血肉としてあるので、表現するとやっぱり母の方を描いてしまう、ということになるんですね。父なんて本当に覚えていないので…強い母というか、そんな感じの作品ばかり撮ってしまって。
今、こちらの映画館で上映していただいている『チチを撮りに』も強い母の話です。セットだと思って、こちらも観ていただくとより面白くなると思います!(笑)

自分の実際の体験が反映されているかということについては…自分の中に在るものを使っているので、そのままというものはないかも知れないですけれども、全部自分が分かっている感情、知っていることで描いている、というのはありますね。

―――一方で、オダギリジョーさん演じる「お父ちゃん」は頼りなくてちょっとカッコ悪さを感じてしまいます。『チチを撮りに』の「お父ちゃん」も女の人を作って出て行ってしまい、あげく末期がんで亡くなってしまいます。この辺の人物設定や物語の展開は、監督の中の「お父ちゃん像」が反映されて…はいないと思うのですが、どなたかモデルはいらっしゃるのでしょうか?

中野監督
正に父親は分からないので・・・。僕が描く男性陣は、きっと僕なんです。いい加減で調子いい時だけ調子よくて、というのは、きっとそれは僕を使ってるんじゃないかと思います(笑)。

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<お客様からの感想・質問タイム>

―――出来上がった直後、これほどの反響を予想なさいましたでしょうか。「やったぞ!」みたいな、そういう感情はありましたでしょうか。

中野監督
監督なんて、実は作り立ては恐ろしくてしょうがないんです。これがどういう風に評価されるかと。最初の方なんかは「こうしておけば良かった」しかないんですね。だいたいそうやって評判や皆さんの意見を聞いて、3ヶ月くらい経ってやっとまともに見られるようになるというか。
ぶっちゃけな話をしてしまうと、この作品は10月29日公開だったので、ちょうど3ヶ月が経ちます。評判は良かったんですが、最初は全然お客さんが入らなかったんです。それで「あれー!?」ってなってたんですけど(笑)。本当に1ヶ月2ヶ月ジワジワジワジワこうやって口コミで広がっていってくれているので…最初から「行くぞ!」というよりも、もちろん「行ってくれ!」とは思ってましたけど、最初のショックが大きかったので、ジワジワきているのが嬉しいし、今日こうして3ヶ月前に公開した映画にこんなに沢山の人が来てくれているというのが嬉しいし、だから今、本当に実感している感じです。口コミで広がってやっと皆が良いと言ってくれているというのが、嬉しいなぁという感じですね。

―――この映画館が復活してから3年ほど経ちます。以前の映画館が閉館するときに、宮沢りえさんの出演作が上映されて、宮沢さんがここに来て舞台挨拶をされたんです。正にこのスクリーンの、監督がいま立たれているその場所に宮沢さんがお立ちになられていました。私はそれを見たので、非常に今日は感激しました。
今回の作品で、宮沢さんにどうやってオファーをしたのか、それを教えて下さい。

中野監督
そうですか、それ(宮沢さんがいらっしゃったこと)は知らなかったので驚きました。僕は宮沢さんと同い年なんです。
僕は新人監督で無名で、さらにオリジナル脚本で映画を撮れるというのは、今はもう皆無な状態なんです。宮沢りえさんがそれをやる(演じる)ということは、あり得ないんです、普通は。
最初は本当にゼロベースでした。脚本は書きましたが、脚本しかないという。ここからどうしようか、まずはお母さんを決めようという所から始まりました。もちろん最初に宮沢さんの名前は挙がっていましたが、オファーして良いものだろうか、というのがあったんです。
僕の中では、脚本を読んでもらったら(演じてもらえる)可能性があるなと思ったんです。この本は絶対に今の宮沢さんに響くと、僕は分かっていたので。それは宮沢さんが母であり、お母さんを亡くされたというのがあったので。でもきっとオファーなんて山ほど来てるでしょうし、読まずにポイーッとしてしまうことも考えられました。でもまずはダメ元かも知れないけど行ってみようということで、オファーを出したんです。
そうしたらちょうど宮沢さんが前の仕事が落ち着いて、次に何をしようかなと思っていた時だったらしくて。読んでくれたんですね、脚本を。それが最初の、僕のチャンスを活かせた時だったというか。宮沢さんは、脚本を読んですぐに決められたそうです。「コレを私以外の人がやるのは嫌だ」と思ってくれたみたいで、決めてくださいました。
でも僕のことが分からないわけです。だから、「やりたいけど、監督に一回会わせてください」といって、監督面接がありました(一同笑)。その時に、肉体的にもアプローチをしてくださいということを言おうと思っていたんです。そうしたらもう向こうから…。その時は既にほとんどやる気で、でも監督が変じゃなければやろうと思ってくれていたんだと思うんです(笑)。だから熱く語ったら「わかりました、やります」って言ってくださいました。
宮沢さんが決まって、この映画は本当にエンジンがかかりだしたというか。正直、このキャストが集まるなんて思ってもいなかったし、僕のオリジナル脚本がこうなるというのはちょっと奇跡的なことなのかなと、今になると思います。

―――銭湯って、今の若い方は全然行きませんね。そういう意味では今の時代に合ったコンテンツでは決してない。でも監督はオリジナル脚本として、ご自身で銭湯を舞台にした家族のドラマを作ろうとお思いになった。銭湯を使おうと思ったきっかけ、背景を教えていただきたいです。

中野監督
逆に言ってしまうと、今一番求められている人の繋がりとか、そういうものが、僕は銭湯にあると思っています。昔から近所に銭湯があって、僕はずっと行っていたのですが、不思議な場所だなぁと思っていたんです。知らない人どうしが普通に一緒にお風呂に入って、おっちゃんなんて喋りかけてくるし(笑)、なんだか不思議な人と人の繋がりのコミュニティみたいな感じがしていて。だからこそ、今それが足りなくなってきているなという思いもあったので。
僕はずっと、家族の愛とか、人と人の繋がりの映画を作ってきていて、まあピッタリなんですよね、僕のやろうとしているテーマに。実は、日本映画学校で初めて撮った映画も銭湯が舞台になっているんです。だから今回が2回目の銭湯が舞台の映画になるんですけど、初めて撮った映画がそれだったので、今回、商業映画デビューをすることになって、最も僕らしい映画で勝負をしたかったんです。ちょっと昔の思いに一回立ち直ってやったというのもそうだし、今一番足りないものを描きたいなという風にも思いました。

―――『チチを撮りに』と今回の映画で、両方とも人の死と葬儀というか、人をどうかということが描かれていると思うんです。特に今回の映画で結末が非常に印象的だと思ったんですけれども、そういった人の葬り方とか死について、何か特別な思いがあれば教えてください。

中野監督
親父が6歳で亡くなったというのを筆頭に、僕は子供のころから火葬場に行くことが多かったんです。で、火葬場って不思議だなぁっていつも思っていたんですね。遺体があるときは悲しいんだけど、燃やして骨になってモノになっちゃったら、皆もう諦めるんですよね。焼きながら泣いているときにご飯を食べたり、生と死が混在している火葬場というものが子供のころから不思議でしょうがなくて。
で、たぶんそういう経験がすごくあって、僕はもう映画で6回か7回くらい火葬場を描いているんです。脚本を書いていたらいつの間にか火葬場のシーンが…(一同笑)。
だから僕の中では火葬場は悲しいというよりも、なんだか不思議で、一番人間らしさが出る場所みたいなイメージがあって。今回も言ってしまえば究極の火葬の話なので、そういうものをやりたかったとうのもあるし、生きる死ぬということが僕の中では真逆のものでは全くなくて、すごく近くにある、横にある…生きる死ぬなんて隣どうしだというイメージがあって。
だから僕がやろうとしているのは「生きること」です。生きることを描きたい。でも生きることを描くためには隣の死というのもちゃんと扱わないといけない。今回の映画も余命2ヶ月のお母ちゃんの話ですけど、僕の中では2ヶ月懸命に生きた人の話をやろうと。生きる方を描きたくて、描いたつもりです。

―――最後に、監督から本日お越しいただいている皆さまにメッセージをいただきたいと思います。
現在当館では、監督の商業デビュー作である『チチを撮りに』と『湯を沸かすほどの熱い愛』を同時上映しております。2作品を併せて観られるこの機会だからこそ、お話しいただけること等があれば、是非お願いします。

中野監督
『チチを撮りに』は『湯を沸かすほどの熱い愛』でいじめっ子だった、あの彼女が主役の映画です。
どちらも今日お話しした僕らしい、僕が考えていることをそのまま出した映画になっていて、死を扱ってはいますが決して後ろ向きじゃない、観終わった後になんだかほっこり元気になる映画になっています。この2本はセットですので、是非よろしくお願いします。
本当にこうやって今日こんなにいっぱいお客さんが来て下さるというのはびっくりしました。とても嬉しいです、ありがとうございます。
最後に、今回は小説も書きました。小説の方では、映画では描いていない視点から書いています。その時こちらではどう思っていたか、というのが全部書いてあります。映画では描いていないエピソード、お父ちゃんとお母ちゃんがどう出逢ったとか、そういうのも書いてあるので、併せて読んでもらえると、ますますこの映画を好きになっていただけるのではないかと思います。


中野量太監督作品『湯を沸かすほどの熱い愛』『チチを撮りに』は2月10日(金)まで絶賛上映中です!!

作品詳細はこちら

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(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会